言問ねこ塾長日記

言問学舎舎主・小田原漂情のブログです。

Vol.298 「ヨーデル」がもたらしてくれたもの

2020年10月26日

 毎年10月26日、灰田勝彦先生のご命日に、港区の麻布十番にある先生の菩提寺のお墓参りをさせていただくようになって、十数年になる。亡くなられてから、今年で38年もの時間が経過した。当時私は19歳だったから、その時の自分の年齢の2倍の年月を、灰田先生の明るい歌とともに生きて来ることができたのである。今日はお墓の前で、長い時間、そのことに感謝して頭を垂れていた。いつものように秋のおだやかな日ざしがお墓に差し上げた水のおもてにきらめいて、明るく照り返していた。

 拙著『遠い道、竝に灰田先生』(1992年10月画文堂版)にも書いてあるし、本稿でもいく度か述べたことがあると思うが、灰田勝彦先生の『アルプスの牧場』を歌えるようになりたいと、私は19歳の時に深く念じ、教えてくれる人もいなければ教本などもない裏声(ヨーデル)を出すために2か月あまり手さぐりで練習した。そしてようやく『アルプスの牧場』が歌えるようになったのだが、そのことは自分でも予想もしていなかった、「人格の明るさ」を手に入れる結果につながった。

 今、言問学舎を経営していて、生徒や検定受検で訪れた方たちの保護者の方々から、「先生の明るい人柄が・・・」というお言葉を頂戴することがあるが、それは灰田先生の明るい歌唱を身につけようと努力したことが、結果として身にもたらしてくれた幸いなのである。

 今日はそんな幸いを思いながら、灰田勝彦先生が自らヨーデルを聴かせるために作曲なさった『アルプスのヨーデル唄い』を歌わせていただいた。今年から「言問学舎」として新しく立ち上げたYouTubeのチャンネルに投稿したので、ご紹介させていただく次第である。

https://www.youtube.com/watch?v=MnSmgazHqoI アルプスのヨーデル唄い

令和2年(2020年)10月26日
小田原漂情
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Vol.297 ふたたび『鈴懸の径』を

2020年10月16日

 10月16日。日本にハワイアンを紹介された灰田有紀彦先生の、34回目のご命日を迎えた。先生が残して下さった美しいメロディー、心にしみる歌は枚挙にいとまがない。例年もいくつかの歌について、拙い文を書かせていただいてきたが、今日はふたたび、『鈴懸の径』についてつづってみたい。

 私ごとであるが、9月の最終の土・日に三陸地方へ足を運んだ。車で回ってくれたのは、大学時代の無二の親友O君である。会うのだけでも22、3年ぶり、旅程をともにするなど25年ぶりにもなろうかという、久しぶりの再会だった。

 しかし、四半世紀ぶりにまる一日半、行動を共にしていて、感じたのは、この得がたい友との間には、たとえ何年離れていようと互いを隔てるものは生じるはずもなく、二十歳前後の学生時代そのままの距離感、空気の中で、ともに過ごすことができるということだった。すなわち我々は旧交を温めるのでなく、互いに年齢相応の風体になってはいるが、内面は四十年前と少しも変わらず、同じ時間を共有していたのだ。

 そして、私とO君の友情のバックには、『鈴懸の径』の旋律が流れているように思われる。何十年経ってもまったく変わることのない友情を、灰田有紀彦先生のあの美しい旋律が裏打ちしてくれるのだ。「友と語らん 鈴懸の径」からはじまる歌詞は、佐伯孝夫氏の作詞になるものだが、言葉はもちろんのこと、あの有起彦先生ならではのゆったりとやさしい旋律が、時を超えてなおゆらぐことのない友情を、たしかに証明してくれるように思えてならない。余談だが、灰田勝彦先生の歌われた『アルプスの牧場』のヨーデルを練習したのも、O君の下宿の近くの石神井公園であった。就職を見すえる頃になり、勝彦先生が生涯在籍されたビクター(音楽産業)に就職したいと口にした際、「いいんじゃないか。そうした一途な思いは必ず成就するよ。」と言ってくれたのも、O君だった。その件は実際の就職活動に臨む際、方向を転換することになったが、一途な思いの方はヨーデルを歌えるようになる形で成就して、今に至っている。

 こんなO君との昔日の1コマを思い出したのもまことに久しぶりだったが、それもやはり『鈴懸の径』のみちびくところであると言えるだろう。言葉ばかりでない、美しい旋律がつむぎ、つないでくれる人の思いというものを、改めてかみしめる今日、10月16日である。青空がことのほか目にしみる。

2020年(令和2年)10月16日
小田原漂情





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