今年春から、『スーパー読解「舞姫」』の制作作業に取りかかり、5月末の同書出来後は、ひきつづき『国語のアクティブラーニング 音読で育てる読解力 小学5年生以上対象3』の制作にうつった上、さらに時節柄夏期講習の準備が重なって、大変慌ただしく、しかし充実した半年間を送って来た。
この夏刊行した2冊とも、許可・許諾申請を要する箇所が多かったから、通常の本づくりよりも要する作業が多く、多忙をきわめた次第であった。
その多忙な期間中、『舞姫』に関して鷗外に関する書物・資料を集めた中に、県立神奈川近代文学館特別展「森鴎外展―近代の扉をひらく」図録(2009年4月25日発行)があり、「日の要求」という言葉をふくむ一文に出会った。同書より鷗外の文章を引用する。
<日の要求を義務として、それを果して行く。これは丁度現在の事実を蔑(ないがしろ)にする反対である。自分はどうしてさう云ふ境地に身を置くことができないだらう。
-「妄想」から>
同書の小泉浩一郎氏の部門解説を参考にさせていただき、私なりに解釈してみると、「日の要求」とは、鷗外が自身の父・静雄に抱いた羨望、「市井の医者として日々の務めをこつこつと果(た)」し、「どんな患者にも全幅の精神をもって対」していた姿に見た、毎日毎日の仕事の要請に誠実に応える生き方と、静雄をそのようにあらしめた職業意識、その日常のことを言うのであろう。「妄想」から引用されている「自分はどうしてそういう境地に身を置くことができないだろう」という言葉に、鷗外の「羨望」の思いが如実にあらわれているのである。
このくだりを読んだあと、『スーパー読解「舞姫」』を作りながら、私の心中には「日の要求」がずしりと大きな位置を占めていた。これこそが私のあるべき姿ではないか。すなわち私の、そして言問学舎の「日の要求」は、日々塾に学びに来てくれる子どもたちのために、持てる力を注ぎつくすことである。一日一日、子どもたちに真剣に対峙すること、それをおろそかにして、「真の国語」の完成もあり得ない。
それ以来さらに力を入れ、中・高生を含めて音読を重ねている。鷗外の『舞姫』はもちろん、中島 敦の『山月記』 (以上高校生)、魯迅の『故郷』、井上ひさし『握手』、三浦哲郎『盆土産』、向田邦子『字のない葉書』(以上中学生)などである。
文章の音読を通した「真の国語」の効用については稿を改め、「ひろく一般のみなさまへ」で近日中にお伝えさせていただきたい。
※音読、「真の国語」ともかかわりの深い歌唱「長崎の鐘」・「新しき」を、2023年9月19日までYouTubeで公開しておりました。同じ動画を、『国語のアクティブラーニング 音読で育てる読解力 小学5年生以上対象3』付属の音読DVDにてご覧いただくことができます。